【文章】2024万歩書店と空中

はじまり

 広島市に「スカイレール」という交通システムがあります。モノレールとロープウェイを組み合わせたような世界でも珍しい乗りものですが、2024年4月末に運行終了が決まっています。今回はそれに乗りにいく&岡山の万歩書店を見にいくことにしました。私は大阪在住なので、岡山、広島、という経路がちょうど良いからです。(2024年2月11日と12日)

万歩書店本店

 来ました。たぶん、10年くらい前にも来たことがあるのですが、そのときと本の趣味も変わっているため、かなり新鮮に棚を眺めました。前はSFがいちばん好きだったような気がする(ので、ハヤカワ文庫とか昔の角川文庫を見ていました)。

 最近は「わたしのかんがえるにほんのカルチャー」みたいな漠然とした志向に従って本を探しています。ただ、今回は久しぶりなのと次いつ来られるか分からないので端から一応、全部の通路を歩いて来ました。
 万歩書店はこの「本店」と隣接する「エンタメ館」(後述)の2店舗が現在あります(昔はもっとあった)。エンタメ館はまんがとゲームソフトなどで構成されており、それ以外のほぼオールジャンルの古書を本店では扱っていました。買った本を見つけた順番に、紹介します。

 山田和夫『家という病巣』(朝日出版社)
 新書の棚から流れていき、新潮選書とか、プラネタリーブックスとかああいう本があるゾーンで発見。80年代前半の本で、「昭和の家族」を考えたいので買ってみました。350円。

 高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』(講談社文芸文庫)
 これを高校生のとき読み、わけがわからん、と思ったのですが、面白かった記憶もあり、もう一回読んでみようと思って買いました。700円。文芸文庫もコーナーになっていて十数冊がまとめて置いてありました。文庫は福武みたいなややマイナーなものでも並んで置いてあり、物量のすごさを感じます。

 『IN-POCKET』(1985年9月号)
 講談社の文庫情報誌。これもたくさん置いてありました。刊行途中で厚さが変わったんだなーと分かるくらいです。いま描いているまんがと若干関係があるのでどれか買うことにし、文庫の装幀特集だったこの号にしました。300円くらい。

 沖島かつじ・チャンネルM『CFアイドルまるかじり』(JICC出版局)
 80、90年代のアイドルとコマーシャル・ムービーが昔から好きなので購入。サムネイルというか、一ショットがいろいろ載っているので楽しいです(モノクロですが)。まんがに構図とか服装とかを引用してみたいと思うのだった。450円。芸能人本、テレビ発の本、等が集まったコーナーにありました。

 小林麻美『あの頃、ショパン』(文化出版局)
 上の本の近くで発見。80年代の『アン・アン』を読んでいると小林さんがどんなに素敵だったか、どんなに当時の読者から憧れられていたか、みたいなことを感じます。私が関心を持つのは、どちらかと言えばその「小林さんに憧れていた(市井の普通の)女性(たち)」についてで、小林さんは好きだけどエッセイはふだん買わないしなーと思って本棚に返したのですが、なんだかだんだん買ったほうが良い気がしてきて、買いました。こういう、本に呼ばれたときは買うことが多いです。400円。

 『別冊私の部屋 カントリークラフト』(Vol.14。1997年夏号)
 以前「スリープ・オン・マイ・ベイビー」というまんがを描きましたが、ずっと「手づくり」のことは気になっています。この号ではカントリードールが特集されており、作者の方やさまざまなクラフトサークルの話題も出てくるのですが、その女性たちの姿や、あるいは今よりもっと豊かでさまざまな空隙を抱えていたかつての「日本」を考えるといろいろなことを連想して、そういうものをなにかにまとめてみたいと思うのでした。あと単純に、カントリーうさぎ人形は、かわいい。でもなにか、寂しさも感じてしまう……。そういう本です。440円。手芸コーナーにあり、『私の部屋』はあまりありませんでしたがクラフト系はそこそこ揃っていて、中身を見て選べたので良かったです。

 宮台真司『援交から天皇へ』(朝日文庫)
 宮台さんは賛否両論ある方で、難しいところもありますが90年代を考えるときに重要な方だと思うし、私は判官贔屓のところもあって、最近の世の中は宮台さん的なものに賛否の否寄りな気がして、それなら賛部分を考えてみたいと思うのだった。350円。

 アニメスタイル特別編集『コミッカーズ*インタビューズ』(美術出版社)
 安倍吉俊さんや森本晃司さん、メビウスさんらのインタビューを収録。600円くらい。ただ、全然画像はありません。安倍さんのインタビューが面白かったので迷っていた『lain』の画集を買うことに決めました。


 このほか、歴史、ファッション、オートバイ、車、児童書、園芸、写真、映画、演芸、幻想文学、社会学、スポーツ、特撮、文学、思想書となんでもありました。ファッションでは裏原の雑誌を探しましたがさすがに全然置いてなかった。あとCDコーナーも80年代アイドルはそれなりの価格でした。当たり前ではありますが、売り手も買い手もインターネット時代ですし、やはり「プレミアのついた商品がこんなに安く!?」といったことは地方でも全然ないな、と思います(万歩書店はリサイクルショップ系ではなく古書店なので、価値を見誤らない面もある)。私が絶版まんがやSFを離れて(私の)「にほんのカルチャー」方向に向かったのも(今回の『カントリークラフト』とか)、そういう確定された価値から離れたい理由があるのかもしれません。

 いちばん端はガラスケースで、プレミアのついたものや貴重な初版本が置いてありました。また、少し離れて美術、2階が低価格ゾーンとなっていました。いったんお会計をしたあとにこの美術コーナーと2階に気がつき、慌ててチェックする。2階はビジネス書や小説が主でしたが、梶山季之等、あの頃の小説もいろいろ並んでいたので、まとまって見られるのは良いかもしれません。

 柏木博『電子デザインの詩学』(パルコ出版)
 そんな中で発見。1300円と今回買った本の中では高めでしたが、関心を持っている内容がいろいろ書いてありそうだったので買いました。「都市生活の断片」の章がいちばん気になる。


万歩書店エンタメ館

 というわけでエンタメ館です。看板にある通り、まんが、ゲーム、玩具がいろいろありました(DVDとCDはあまり目が留まりませんでした)。まんがは「青林堂」コーナーがあったり、COMやアゲインなどマニア向けのコミック誌やアニメ誌まで並べてありました。ほかにもサンコミやサンワイドなど、基本的なところは抑えられており充実しています。4コマまんがなども多かったです。ただ、その手のマニアックな商品は〜80年代まで、という感じで、90年代のマニアックな(『アフタヌーン』くらいの)まんがは私が見た範囲ではあまりなかったです。最近の売れ筋まんがの次が「ガロ」とか手塚治虫というか。でもまんだらけと比べても見劣りしない棚がこうして一地方にあるのはやっぱりすごい感じがします。

 やまだ紫『鳳仙花』(ブロンズ社)
 比較的状態が良く、買ってみました。副題に「やまだ紫初期作品集」とあるように『しんきらり』で見られる洗練された絵とちがった、いかにも当時の同人まんがらしい雰囲気が見られます。コマ構成も全然ちがう。暗めの話が多そうでしたが、読むのが楽しみです。1500円。

 芳成香奈子『こむぎ日和』(クイーンズコミックス)
 芳成さんのまんがはいろいろ読みたいのですがなかなか手に入りません。これは犬を題材にとったエッセイまんがで、犬がかわいかったので買いました。60円。

 いしいひさいち『ドーナツブックス』26(双葉社)
 ドーナツブックスは細々と揃えています。200円くらい。

 千明初美『かじか沢物語』(『りぼん』1978年10月号ふろく)
 今回いちばんうれしかったのがこれです。『ちひろのお城』に収録されていない作品で、高野文子さんの大ファンの私は、その流れで千明さんを知って非常に興味を持っていたため、手に入って感激。ガラスケースに入っていたので結構高いのかと思いましたが、300円と安価でした。


ジョイフル岡山大福店

 2月13日をもって閉店とのことだったので無くなる前に行って来ました。初めて行くお店ではあったのですが、無くなると思うと寂しい感じがします。

尾道書房

 行きたかったのですが三連休のためかシャッターが降りていて、来訪できませんでした。無念。尾道は路上駐車場がどこも「満」になっていて、すごい人気です。

弍拾dB

 おしゃれな感じの古本屋さんです。おしゃれなものに抵抗感があるのと営業時間が(当初)夜だけだったため未訪問だったのですが、時間が少しあったこともあり寄ってみました。文学を中心にしたオールジャンルの品揃えで、まんがも少し置いてあります。昔の『POPEYE』をお土産代わりに売っていて(そんな内容のPOPがあった)、「おしゃれな感じの人は古本屋で「お土産」を買うのか」と印象に残りました。今回価格のメモを失念。全部で2000円くらい。

 中野重治『村の家・おじさんの話・歌のわかれ』(講談社文芸文庫)
 江藤淳の『昭和の文人』を読み、中野重治が気になっていたので買いました。

 野々村文宏・中森明夫・田口賢司『卒業』(週刊本)
 80年代ファンなら読んでおくべきかも、と買ってみました。一回値下げされた痕跡があり、たしかにおしゃれなピープルはこれを買わないよな! と勝手に納得をしたのだった。

 『大阪呑気大事典』(JICC出版局)
 前から機会があったら買おうと思っていて、機会があったので買いました。不意に手に取ってパラパラめくる、みたいな読み方をします。

 Towers『ポートピア花壇捜索隊』No.1(リトルプレス)
 自費出版や新刊のコーナーも少しあり、以前インターネットで見かけて気になっていたこの本を発見。写真豊富な内容で面白いし、花壇の様子を紹介する文章に愛を感じます。「ポートピア’81」の紹介も興味深く、勉強になりました。神戸に行ったときはちょっとポートピア花壇のことを考えて歩いてみたいです。


 ここまでが1日目で、翌日スカイレールに乗りに行きました。

スカイレール

 正式には「スカイレールサービス広島短距離交通瀬野線」というそうです。写真のJR瀬野駅から繋がって「みどり口駅」というスカイレールの駅がありました。

 券売機で切符を買います。切符は紙ですが、紙にQRコードが載っていてそれを改札へかざして通過する仕組みです。アナログなのかデジタルなのか、ふしぎな感じでした。

 雰囲気はロープウェイながら、結構しっかりしているというか、鉄っぽい印象を受けます(完全に印象)。

 天井です。

 動き始めると揺れはそれほどでもなかったのですが、予想よりかなりスピーディでした。斜面をゴウンゴウンと登っていきます。間に「みどり中街駅」を挟んだ全3駅の行程で、眼下に「スカイレールタウンみどり坂」の町並みが広がります。階段が多く見え、登って行く高さを実感できました。町は住宅が整然と並び、計画的な開発の美しさが感じられます。

 この、「みどり坂」の字体に、泣きたくなるのだった。

 一番上のみどり中央駅から少し歩くと公園がありました。

 帰りは同じ習い事なのか、小学生のグループと一緒になったので写真は撮りませんでした。彼女たちは将来、スカイレールのことをどんなふうに思い出すんだろう、と考えながら、私は来た道を揺られていきました。

おわりに

 久しぶりに古本屋さんに寄ることができ、スカイレールにも乗ることができてとても良かったです。いろいろなものが失われていく日本ですが、なんとかひとつひとつを確かめて生きていこうと思います。